半七捕物帳
新カチカチ山
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)新《しん》カチカチ山《やま》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)浅井|因幡守《いなばのかみ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)見物がわっ[#「わっ」に傍点]と唸りました。
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     一

 明治二十六年の十一月なかばの宵である。わたしは例によって半七老人を訪問すると、老人はきのう歌舞伎座を見物したと云った。
「木挽町《こびきちょう》はなかなか景気がようござんしたよ。御承知でしょうが、中幕は光秀の馬盥《ばだらい》から愛宕《あたご》までで、団十郎の光秀はいつもの渋いところを抜きにして大芝居でした。愛宕の幕切れに三宝を踏み砕いて、網襦袢の肌脱ぎになって、刀をかついで大見得を切った時には、小屋いっぱいの見物がわっ[#「わっ」に傍点]と唸りました。取り分けてわたくしなぞは昔者《むかしもの》ですから、ああいう芝居を見せられると、総身《そうみ》がぞくぞくして来て、思わず成田屋ァと呶鳴りましたよ。あはははは」
「まったく評判がいいようですね」
「あ
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