るだろう」
巻煙草の吸い殻を手のひらに乗せて、半七は又しばらく考えていた。
三
半七と松吉は鈴ヶ森を一旦引き揚げて、浜川の丸子へ戻って来ると、店では待ち受けていてすぐに二階座敷へ通された。前から頼んであったので、酒肴の膳も運び出された。
「なあ、松。ここの家《うち》できいても判るめえが、小伊勢の巳之という伜が睨みの松の下でお糸という女に逢った時に、その女はどんな装《なり》をしていたのかな。まさか芝居でするお女郎の道行《みちゆき》のように、部屋着をきて、重ね草履をはいて、手拭を吹き流しに被《かぶ》っていたわけでもあるめえが……」
「さあ」と、松吉は猪口《ちょこ》を下におきながら云った。「そりゃあ本人の巳之助に訊いてみなけりゃあ判りますめえ。だが、親分。どうしても人違いでしょうか」
「論より証拠、そのお糸という女は無事に若狭屋に勤めていると云うじゃあねえか」
「そりゃあそうですが……」
云う時に、女中が二階へあがって来たので、半七は酌をさせながら訊《き》いた。
「品川にかかっている黒船から、マドロスがここらへあがって来ることがあるかえ」
「ええ、時々に二、三人連れでここ
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