、自分が鈴ヶ森方面で聞き出して来た材料をそれからそれへと列《なら》べて報告した。
「この一件の始まりは、なんでも三月の始めだそうです。漁師町の若い者が酒に酔って鈴ヶ森を通ると、暗いなかで変な女に逢った。こっちは酔ったまぎれに何か戯《からか》ったらしい。そうすると、赤い火の玉がばらばら飛んで来て、若い者の顔や手足に降りかかったので、きゃっ[#「きゃっ」に傍点]と驚いて逃げ出した。その噂が序開きで、それからいろいろの怪談が流行り出したのです」
田町の料理屋小伊勢のせがれ巳之助が何者にか殴り倒されたこと、京の逢坂屋伝兵衛一行が天狗に嚇された事、まだそのほかに浜川の漁師が魚《さかな》を取られた事、大森の茶屋の女が髪の毛を切られた事、誰が化かされて田のなかへ引っ込まれた事、誰が幽霊に出逢って気絶したこと、誰が顔を引っ掻かれた事、およそ十箇条をかぞえ立てた後に、彼はひと息ついた。
「一々洗い立てをしたら、まだ何かあるでしょうが、どれも大抵は同じような事ばかりで、そのなかには嘘で固めた作り話もありそうですから、まあいい加減に切り上げて来ました。まず一番骨っぽいのは、小伊勢のせがれの件で、なにしろそ
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