らねえが、お六と一緒に暮らしている奴は勇二といって、土地の遊び人なんぞとも附き合っているそうですから、何をするか判りませんよ」
「その勇二は二、三日前から帰らねえと云うじゃあねえか」
「二十六日の晩から家《うち》へ帰らねえそうです」
「鮫洲の金造という奴の家へ行っているという話だから、これからともかくも行ってみようと思っているのだ」
「鮫洲の金造……。あいつならわっしも知っています。現にきのうも品川で逢いましたよ。生薬屋《きぐすりや》の店で何か買っていました」
「金造はどんな奴だ」
「なに、けち[#「けち」に傍点]な野郎ですよ」
 半七は立ちどまって考えていた。
「おい、松。御苦労だが、品川へ引っ返して、その生薬屋で金造が何を買ったか調べて来てくれ。風薬《かざぐすり》の葛根湯《かっこんとう》ぐらいならいいが、疵《きず》薬でも買やあしねえか」
「ようがす。すぐに調べて来ます」
「往来に立ってもいられねえ。そこの団子茶屋に休んでいるぜ」
 橋のたもとの茶店にはいって暫く待っていると、やがて松吉が急ぎ足で帰って来た。
「親分。案の通り、金造は切疵《きりきず》のくすりを買って行きました。金創《 
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