そのうちに、一方の事件も片付きましたので、いよいよこっちへ手を着けることになりました。六月十日の夜、重兵衛が淀橋へ泊まりに行ったのを突きとめて、わたくしと亀吉が出かけました。幸次郎も行こうというので、それほどの大捕物でもないが、まあ一緒に連れて行くと、前にお話し申したように大騒動に出っくわして……。いや、もう、ひどい目に逢ったんです」
「火薬の爆発は朝でしょう」
「それが十一日の朝まで引っかかったので……。わたくし共が淀橋へ行き着いたのは十日の夜四ツ半(午後十一時)頃、寝込みへ踏ん込んで一度に押え付けようと思ったんです。ところが、いざ踏ん込んでみると、蚊帳の一方の釣り手をはずして、孤芳ひとりが寝床の上にしょんぼり[#「しょんぼり」に傍点]と坐っているんです。重兵衛はどうしたと詮議すると、最初は来ていないとシラを切っていましたが、しょせんは女ですからとうとう正直に云いました。そこで、だんだんに取り調べると、孤芳は万次郎と手を切ると約束して置きながら、その後もやはり内証で男を引き入れていると、重兵衛もそれを感付いたのでしょう、今夜わたくし共よりひと足さきへ踏ん込んで来て、一つ蚊帳のなかに寝
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