かな葬式を営むことを遠慮したのであるが、それでも会葬者はなかなかに多かった。大津屋の重兵衛も会葬者の一人に加わっていた。
葬式が果てた後、亀吉は重兵衛のあとを尾《つ》けてゆくと、彼は太宗寺の方角へ足を向けた。それは新宿の閻魔として有名の寺である。その寺に近いところに、小さい二階家があって、重兵衛はその入口の木戸をあけてはいった。庭には白い辛夷《こぶし》の花が咲いていた。
近所で訊くと、それが彼《か》の女絵師の孤芳の住み家であった。これで重兵衛と孤芳との関係が、自分の鑑定通りであるらしいことを亀吉は確かめたが、更に近所の者の話を聞くと、孤芳の家には重兵衛のほかに、二十歳《はたち》前後の色白の男が時々に出入りをする。又そのほかに十七八の不器量な娘も忍んで来るというのであった。男はおそらく牧野万次郎で、娘は大津屋のお絹であろう。孤芳が重兵衛の囲い者のようになっている関係上、万次郎とお絹はここの二階を逢いびきの場所に借りている。それもありそうな事だと、亀吉は思った。
その報告を聴いて、半七は云った。
「それだけの事が判ったら、それを手がかりに、もうひと足踏ん込まなけりゃあいけねえ。丸多の
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