謀叛人だ。由井正雪が褒めているかも知れねえ。だが、こいつらがおとなしく手を引いて、これっきり丸多へ因縁を付けねえということになれば、まあ大目《おおめ》に見て置くほかはあるめえ。何事もこの後の成り行き次第だ」
「まあ、そうですね」と、亀吉も答えた。
「それにしても、丸多の亭主にも困ったものだ。店の者にゃあ気の毒だが、何処をどう探すという的《あて》がねえ」と、半七は溜め息をついていた。
それから世間話に移って、やがて四ツ(午後十時)に近い頃に、亀吉らは一旦挨拶して表へ出たかと思うと、又あわただしく引っ返して来た。
「親分、飛んだ事になってしまった。丸多が死んだそうですよ」
つづいて番頭の幸八が駈け込んだ。
「いろいろ御心配をかけましたが、主人の死骸が見付かりました」
「どこで見付かりました」と、半七も忙がわしく訊《き》いた。
「追分《おいわけ》の高札場《こうさつば》のそばの土手下で……」
「それじゃあ近所ですね」
「はい。店から遠くない所でございます」
「どうして死んでいたのです」
「松の木に首をくくって」
「例の絵馬は……」
「死骸のそばには見あたりませんでした。御承知の通り、あすこ
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