何か模写しているようでした。その後に又来ましたが、今度は女ひとりで、やはり一心に写しているように見受けました」
 その女の人相や風俗を訊きただして、半七と亀吉は寺僧らに別れた。
「その女というのは絵かきでしょうね」と、亀吉は云った。
「むむ。どうで偽物をこしらえるのだから、絵かきも味方に入れなけりゃあならねえ。男というのは絵馬屋の亭主で、女は出入りの絵かきだろう。これから帰ったら、その女を探ってみろ」
「ようがす。女の絵かきで、年ごろも人相も判っているのだから、すぐに知れましょう。そこで、大津屋はどうします。もう少し打っちゃって置きますか」
「どうで一度は挙げる奴らしいが、まあ、もう少し助けて置け。いよいよおれの鑑定通り、ここの絵馬が無事であるとすれば、大津屋の亭主は丸多をだまして、偽物を押し付けたに相違ねえ。それを知らずに偽物を後生《ごしょう》大事にかかえて、丸多の亭主は何処をうろ付いているのだろう。考えてみると可哀そうでもある。なんとかして早くそのありかを探し出してやりてえものだ」
「帰りに堀ノ内へ廻りますかえ」
「ついでと云っちゃあ済まねえが、ここらまでは滅多《めった》に来られね
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