ごろ四十三四の浪人ふうの男がいる。それが彼《か》の小左衛門らしいので、徳次はそっと眼をつけていると、やがて自分の番が来て浪人は寺内へはいったので、徳次は茶屋の者に訊《き》いてみると、あれは平田孫六という人で、以前はここらで売卜者《うらない》などをしていたが、ひとり娘が容貌《きりょう》望みで砧《きぬた》村の豪家の嫁に貰われたので、今では楽隠居のように暮らしているというのです。こいつ又、鍋久の二番目を出したなと思いながら、徳次もその日は何げなく帰って来て、あらためて手続きをした上で、召し捕りました。
 果たして平田孫六は偽名、実は磯野小左衛門で、お節は鍋久をぬけ出してから、北沢村の百姓清左衛門という者の家に隠れていたんです。清左衛門は小左衛門が勤めていた旗本屋敷に出這入りしていた者で、その縁故で隠まわれていたということです。小左衛門も山谷《さんや》を逃げ出して来て、暫く一緒に忍んでいるうちに、お節の容貌《きりょう》が眼について豪家の嫁に貰われることになって、まず当分は都合よく暮らしていたんですが、こんにちで云えばリョウマチスか何かでしょう、両方の腕がこのごろ痛むので、森厳寺へ灸を据えに来た
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