めようとするらしく、その二、三人は庭へ出て、そこらの隅々を探し歩いた。
「なんだろう」
「どこだろう」
彼らは口々に罵り騒いでいた。内から仏前の蝋燭を持ち出して、庭さきを照らしているのもあった。しかも怪しい物の姿はみえず、怪しい声もそれぎりで止んでしまったので、彼らも根《こん》負けがして再び内へ戻ると、それを窺っていたように怪しい声はまた呼んだ。
「御新造さん……。御新造さん……」
さっきから耳を澄ましていた半七は、小声で亀吉に教えた。
「判った。あの屋根へ石を叩きつけろ」
東どなりには少しばかり空地《あきち》があって、その隣りは法衣屋《ころもや》であった。往来の人を相手にする商売でないので、宵から早く大戸をおろして、店のくぐり障子に灯の影がぼんやりと映っていた。怪しい声はその屋根から送られて来るものと、半七は鑑定したのである。
二人は探りながらに足もとの小石を拾って、隣りの屋根を目がけて投げ付けた。いわゆる闇夜の礫《つぶて》で、もちろん確かな的《まと》は見えないのであるが、当てずっぽうに投げ付ける小石がぱらぱらと飛んで、怪しい声の主《ぬし》をおびやかしたらしく、屋根の上を逃げ
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