になっている。町屋《まちや》ばかりでなく、諸大名の屋敷でも軍用金はこうして貯えて置くのだと、そう云うのです」
 そんなことが本当にあるか無いかを、半七もよく知らなかった。幸次郎は勿論知らなかった。二人は唯だまっていると、増蔵は猶も語りつづけた。
「それでまあ不審は晴れたのですが、わたくしのような貧乏人が金のかたまりを持ち歩いても、どこでも滅多《めった》に取り合ってくれそうもありませんから、どうしたものかと考えているうちに、つい花どきだものですから田町へ行って又一両借りてしまいました。そんなわけで、いよいよ退引《のっぴき》ならない羽目《はめ》になって、わたくしも困っているところへ、この二日の晩に宗兵衛のおかみさんが駕籠で乗り付けて来て、ここの家にあずけてある蝋燭をかえしてくれというのです。その様子が何だかおかしい。おかみさんは散らし髪で眼の色が変っていて、どうも唯事ではないらしく、夫婦喧嘩でもして来たらしいので、大事の品をうっかり渡していいかどうだかと、わたくしは又困っていると、おかみさんは凄いような顔をして是非渡せと云う。そうなると、猶さら不安になって来て、旦那が来なければ渡されないと
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