と、ここにも裏木戸があって、その戸を押すとすぐに明いた。
「御免なさい」
 女中は居睡りでもしていたらしく、二、三度呼ばせて漸く出て来た。彼女は水口《みずぐち》の障子をあけて、不審そうに半七らをながめていた。
「おまえさんは女中かえ。お由さんというのだね」と、半七は先ず訊いた。
 お由は無言でうなずいた。
「旦那はお留守ですかえ」
「ゆうべから帰りませんよ」
「馬道のお光さんのところへ泊まり込みかね」
 何でもよく知っていると云うように、お由は無言で半七らの顔をふたたび眺めた。
「実はそのお光さんの家《うち》へ行ってみたのですが、ゆうべから旦那は来ないというので……。それでお宅の方へ参ったのですが、旦那はどこへ行くとも、いつ帰るとも、云い置いて行きませんでしたかえ」
「なんにも云って行きませんよ」と、お由は素気《そっけ》なく答えた。
「おかみさんは……」
「おかみさんも留守ですよ」
「二日の晩から居ないのかえ」
 お由は無言であった。
「隠しちゃあいけねえ。おかみさんは本当に二日の晩から帰らねえのだろう」
 お由はやはり無言であった。半七は舌打ちしながら幸次郎を見かえった。
「また両国
前へ 次へ
全46ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング