角にむかった。
「都合によっちゃあ、それからそれへと追っ掛けにならねえとも限らねえ」と、半七は云った。
「刻限はちっと早えが、腹をこしらえて置こう」
茶屋町辺の小料理屋で午飯《ひるめし》を済ませて、二人は馬道から田町一丁目にさしかかった。表通りは吉原の日本|堤《づつみ》につづく一と筋道で、町屋《まちや》も相当に整っているが、裏通りは家並《やなみ》もまばらになって、袖摺稲荷のあるあたりは二、三の旗本屋敷を除くのほか、うしろは一面の田地になっているので、昼でも蛙の声が乱れてきこえた。稲荷の近所というのを心当てに、二人は探しあるいていると、往来で酒屋の小僧に出逢った。
「おい、ここらに金貸しの宗兵衛さんという家《うち》はねえかね」と、幸次郎は小僧を呼びとめて訊《き》いた。
「宗兵衛さんはいないよ」
「どこへ行った」
「どこへ行ったか知らないが、ゆうべから帰らないと女中が云ったんだ」
「まあ、留守でもいいや。その家を教えてくれ」
小僧に教えられて、宗兵衛の家をたずねて行くと、柾木《まさき》の生垣《いけがき》に小さい木戸の入口があって、それには昼でも鍵が掛けてあるので、二人は更に横手へまわる
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