。おい、唯の人が訊くのじゃあねえ。おれが訊くのだ。正直に云えよ」
 彼女はやはり黙って俯向いていたが、その顔色はいよいよ蒼ざめて来たので、幸次郎は嵩《かさ》にかかって嚇し付けた。
「こいつ、わる強情な女だな。おい、爺さん、縄を持って来い。この阿魔《あま》をふん縛ってしまうから……」
 如何にこの時代でも、単にこれだけのことで無闇に人を縛ることの出来ないのは判り切っているのであるが、若い女はその嚇しに乗せられたのか、但しはほかに仔細があるのか、縄をかけると聞いて彼女はひどくおびえた。口を利くにも利かれず、逃げるにも逃げられず、彼女は身を固くして立ちすくんでいた。
 ここらで好かろうと、半七は奥からふらりと出て来た。
「何だか嚇かされているじゃあねえか。宮戸川のお光が縄付きになったら、泣く人がたくさんあるだろう。なんとか助けてやりてえものだな」
 幸次郎一人でさえも受け切れないところへ、又その親分が不意にあらわれて来たので、お光の顔は蒼いのを通り越して、土のような色になってしまった。

     三

「おい、お光。おれは幸次郎のように嚇かしゃあしねえ」と、半七は賺《すか》すように云い出し
前へ 次へ
全46ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング