るやくざがいる。そんな奴が幾らかの鼻楽を貰って、お鎌に手を貸してたんじゃあないかとも思われますが、甚右衛門の顔に免じて、そこはまあ有耶無耶《うやむや》にしてしまいました」
「おまんはあなたに捉まって……。それから、お鎌はどうしました」
「一旦は逃げましたが、五、六日の後に深川の木賃宿《きちんやど》で挙げられました。お鎌は竜濤寺に隠してある金に未練が残っていて、ほとぼりの冷めた頃に又さがしに行く積りであったそうです。悪党のくせに、よくよく思い切りの悪い奴で、そこがやっぱり女ですね」
「問題の睡り薬は、どっちの女が持っていたんです」
 と、私は最後に訊《き》いた。
「いや、それがおかしいので……」
 と、老人は笑った。
「おまんはお鎌から受け取ったと云い、お鎌はおまんから受け取ったと云い、両方で押し合いをしているんです。もうこうなった以上は、誰が持って居ようとも、罪科に重い軽いは無いわけですが、それでもお互いに強情を張って、しまいまで素直に白状しませんでした。しかし私の鑑定では、おまんが持っていたんでしょうね」



底本:「時代推理小説 半七捕物帳(四)」光文社文庫、光文社
   198
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