僧、芝居ならば忠臣蔵の本蔵とか毛谷《けや》村のお園《その》とかいう所です。御承知でもありましょうが、坊主や虚無僧は寺社奉行の支配で、町方《まちかた》では迂濶に手を着けることが出来ないのですから、そこを見込んで思い思いに化けたんでしょう。こいつらは徒党を組んで、大きい町人や旗本屋敷をあらし廻って、相当に纏まった仕事をしていたらしいんです。この一件の一と月ほど前に東両国の質屋へ押込みにはいった二人組がありましたが、その晩は蒸し暑いので、ひとりの奴が覆面を取って顔の汗を拭くと、それが坊主頭であったので、店の者は又おどろいたということです。私はその話を聞いて、この頃ここらに坊主あたまの悪い奴らが立ち廻っていることを知っていたので、竜濤寺の坊主共も或いはそんな仲間じゃあないかと、まず第一に思い付いたんです。
 そこで、古井戸の死骸ですが、出家二人と虚無僧二人が、一度に身投げをするのもおかしい。おまけに、その死骸が水を嚥《の》んでいなかったと云いますから、身投げでは無いように思われます。しかし他人が殺して投げ込んだのならば、からだに何かの疵あとが残っていなければならない。たとい毒殺にしても、やっぱ
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