ものではないというので、所詮は得体《えたい》のわからない一種の怪獣と見なされてしまった。そうして、清水山に怪異があるというのは、こんな怪獣が棲んでいる為であろうということになった。その正体を見とどけた喜平らは岩見重太郎の二代目とまでは行かなかったが、ともかくも弱虫の汚名《おめい》をすすぐことが出来たので、大手を振って町内を押しあるいた。怪獣のゆく末は説明するまでもない。かれは両国の見世物小屋に晒され、柳原の清水山に年を経たる九尾の怪獣の正体はこれでございとはやし立てられて、興行師のふところを余程ふくらませた。
唯ここに一つの疑問として残されているのは、池崎の中間どもが清水山に犬を入れて啣《くわ》え出させたという、かの怪しい箱の出所《しゅっしょ》である。これも恐らくは、かのお早の仕業であろうかと察しられるが、何分にもその実物をみないので何とも云えないと、半七老人はわたしに話した。かの貂に似た獣は昔からここに棲んでいたのか、それとも他《よそ》から入り込んで来たのか、それも判らない。中間どもの放した犬がこの怪しい獣を狩り出さないで、ほかの怪しい箱を啣え出して来たのも、不思議といえば不思議で
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