に来てくれと云って、無理にわたくしを清水山の奥へ引き摺って行きました。今まで一分ずつくれていたのですから、ほんとうの化け物でないことは判っていますが、なにしろ化け物のような女の正体がわかってみると、なんだか薄気味が悪くなって、お岩か累《かさね》にでも執着《とりつ》かれたような心持で、わたくしは怖々《こわごわ》ながら付いて行くと、女はすすり泣きをしながら、どうで一度は知れるに決まっていると覚悟はしていたが、さてこうなると悲しい、情けない。わたしのような者でも不憫と思って、今まで通りに逢ってくれるか、それとも愛想を尽かしてこれぎりにするか、その返事次第でわたしにも料簡があると、こう云うんです。嫌だと云ったら、いきなり喉笛にでも啖《くら》いつくか、帯のあいだから剃刀でも持ち出すか、どの道、唯はおかないという権幕ですから、どうにもこうにもしようがなくなって、わたくしも一時逃がれの気やすめに、きっと今まで通りに逢うという約束をしてしまいました」
 かれは茶碗の水を又ひと口のんで、しばらく息を休めていた。

     六

 その後の成り行きについて勝次郎はこう訴えた。
 かれは一時逃がれの気やす
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