るあいだに、何かのはずみでお早という娘と出来あったに相違ねえ。女は男が恋しい一心で雑司ヶ谷からわざわざ逢いに来る。それを自分の家へ引き摺り込んでは近所となりの手前もある。女の方も例の一件だから、なるたけ薄暗いところがいい。そこでふたりが話しあって、むかしから人のはいらねえ清水山を出逢い場所にきめたんだろう」
「勝次郎は一件を知っているんでしょうか」と、善八は顔をしかめた。
「よもや知るめえ」と、半七も溜息をついた。「痣のあることは知っていたろうが、相手は大家の娘だ。あいつも慾に転んで引っかかったんだろう。悪いことは出来ねえもんだ。喜平や銀蔵をなぐった奴も雑司ヶ谷の奉公人だろう。大勢の奉公人のうちには忠義者があって、よそながら主人のむすめの警固に来ているらしい。甚五郎の床店へ髪を束《たば》ねに来たという二人連れの男が確かにそれだ。こう煎じつめて来ると、ゆうべ勝次郎を引っかついで行った奴も大抵わかる筈だ。お早と勝次郎の逢いびきは当人同士の勝手だが、世間を騒がすのはよくねえから、一応は叱って置かなけりゃあならねえ。殊に雑司ヶ谷の奴らが勝次郎をさらって行くなどとはよくねえことだ。科人《とがにん》をこしらえるほどの事でなくっても、これも叱って勝次郎を助けてやらなけりゃあ可哀そうだ」
「じゃあ、すぐに繰り出しましょうか」
「これから出かけると、夜がふけて何かの都合が悪かろう。まあ、あしたにしようぜ。世間のうわさがあんまり騒々しくなったのと、勝次郎の奴がこの頃だんだんぐらつき出したので、向うでも引っかついで行ってしまったんだろうから、なにも命を取るようなこともあるめえ。種さえあがれば、そんなに慌てなくてもいい」
 あくる朝、半七は善八をつれて雑司ヶ谷へ出向いた。よもやと思うものの、相手は大家で大勢の奉公人がいるといい、近所の者もみな彼を尊敬しているようでは、どんな邪魔がはいらないとも限らないので、幸次郎と多吉も見え隠れにそのあとを追って行った。庄司の家はなるほど由緒ありげな大きい古屋敷で、門の前にはここらの名物の大きい欅《けやき》が幾本もつづいて高く立っていた。
 主人に逢いたいと申し込むと、しばらくして二人は門内へ通された。庭には大きい池があって、そこには鴨の降りているのが見えた。池の岸には芒《すすき》の穂が白くそよいでいた。その池をめぐって、更に植え込みのあいだを縫ってゆくと
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