い働いてみましょう」
武士はすこし顔の色を直して、ふところから五十両の金を出した。
「ともかくもこれだけ預けて置いて、あとは明日持参いたすが、あの仮面は手前の方へ譲ってくれるな」
「足もとを見てお高いことを申し上げるわけにもまいりませぬ。けさほどのお客様には百五十両にねがいましたのでございますから、やはりそのお値段でお願い申しとう存じます」
「承知いたした。では、くれぐれも頼む」
かたく約束して、武士は帰った。伊藤の店には二人の手代がいるが、どちらも得意先へ出廻った留守であったので、この掛け合いは主人ひとりの胸に納めて、誰にもそれを洩らさなかった。
日の暮れる頃に、けさの客がまた出直して来た。
「あしたという約束であったが、金春新道《こんぱるじんみち》の方まで来る用が出来たので、足ついでに廻って来た。残金二十二両、あらためて受け取ってくれ」
と、かれは孫十郎の前に金をならべた。
「就きましては、少々御相談いたしたいことが出来たのでございますが、店さきでお話もなりませぬ。お手間は取らせませんから、ちょっと二階までお通りをねがいます」
不思議そうな顔をしている客を、無理に二階へひ
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