やけ》が手伝ったんでしょう。目黒から毎晩のように品川へ遊びに行って、金づかいの暴《あら》っぽいところから足が付きました。屋敷者なんぞがちっと暴い銭をつかえば、すぐに眼をつけられますよ」
 それにしても、まだ判らないのは、かれが逐電の後、その屋敷ではなぜ彼《か》の仮面の詮議をそのままにして置いたのか、なぜ代理の者を出して伊藤の店から買い戻さなかったのか。それに就いて、老人はこう説明した。
「それがおかしいんです。その屋敷では浅五郎の云うことを一途に信じて、あわててその仮面を取り戻そうとしたんですが、浅五郎の逐電から疑いを起して、今度は眼のきいている者を掛け合いによこすと、伊藤の店さきには麗々しくその仮面がかけてある。よく視ると、それはなるほど上作には相違ないが、屋敷にあった由緒付きの仮面とは違うので、この上は掛け合いも無用と、そのまま帰ってしまったのだそうです。まったく馬鹿な話で、伊藤がひとり貧乏くじをひいたわけです」
「すると、ほんとうの仮面というのは知れずじまいですか」と、わたしは又|訊《き》いた。
「知れなかったようです」と、老人は答えた。「それとも其の後どこかで見付けたかも知れま
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