はいつも一人で出かけるのか」
「勝蔵というボーイがいつも一緒に出かけていたようです。それが主人に知れたもんですから、勝蔵の方は二月の末に暇を出されたそうです。どうで異人館奉公するような奴ですから、なんでも江戸の食いつめ者で、こいつがロイドを案内して行って、面白い味を教えたらしいんですよ。いくら異人だってこういう奴らにおだてられちゃあ、自然に泳ぎ出す気にもなりましょうよ。罪な奴ですね」と、三五郎はやはり笑っていた。
「その勝蔵という奴はそれからどうした。やっぱりここらにうろ付いているのか」
「さあ、どうですかね」
「それを早く調べてくれ。そいつにも誰か友達があるだろう。異人館をお払い箱になって、それからどうしたか。江戸へ帰ったか、こっちにいるか、よく突きとめて来てくれ。たいしてむずかしいこともあるめえ」
「あい。ようがす。なるたけ早く聞き出して来ましょう」
「しっかり頼むぜ」
 ここの勘定は半七が払って、三人は料理屋の門《かど》を出ると、宵闇ながら夜の色は春めいて、なまあたたかい風がほろよいの顔をなでた。半七は去年泊まった上州屋へゆくことにして、ここで三五郎に別れた。
「親分。その勝蔵と
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