戸部の奉行所でも厳重に探索をはじめた。三五郎も一生懸命に駈けまわっているが、どうしても彼等の足跡を見つけ出すことが出来ない。それにはどうも弱っていると彼も溜息まじりで云った。
 半七と松吉は顔を見あわせた。
「それで、おめえはその生首というのをどう思う。そこらの異人で、そんなに首を取られた奴があるのか」と、半七は又|訊《き》いた。
「あればすぐに知れる筈ですが……」
「それじゃあ近い頃に病気で死んだ者があるか」
「それも無いそうです」と、三五郎は首をかしげていた。「それだからどうも判らねえ。わたしの鑑定じゃあ、きっとどこかの墓場あらしをして、日本の死人の首をなんとか巧くこしらえて来るんだろうと思うんですよ。嚇かされる方はふるえ上がっているから、それが異人か日本人か、碌な首実験が出来るもんですか。ねえ、そうじゃありませんか」
 かれも半七の最初の鑑定とおなじ見込みを付けているのであった。しかし今の半七はそれに耳を貸すことは出来なかった。おなじ墓場あらしでも、或いは異国人の死に首を掘り出してくるのではないかという疑いはあったが、近ごろ病死した者がないとすれば、その疑いもすぐに煙りのように消
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