て帰ると云うていました」
云ううちにかの男は出て来た。彼はあたりの人に気を置くようにきょろきょろと見廻しながら、紋七やお浜親子に挨拶して怱々《そうそう》に出て行った。半七はすぐに子分を呼んだ。
「やい、庄太。あの男のあとをつけろ」
葬式の出る頃に霰はやんだ。紋作の寺は小梅の奥で、半七も会葬者と一緒にそこまで送ってゆくと、寺の門内には笠を深くした一人の若い侍が忍びやかにたたずんでいて、この葬列の到着するのを待ち受けているらしかった。
四
紋作の初七日の逮夜《たいや》が来た。今夜は小間物屋の二階で型ばかりの法事を営むことになって、兄弟子の紋七は昼間からその世話焼きに来ていた。涙のまだ乾かないお浜は、母と共に襷《たすき》がけで働いていると、その店さきへ半七がぶらりと来た。
「おれは御法事に呼ばれて来たわけじゃあねえが、これはまあ御仏前に供えてくれ」と、かれは菓子の折を出した。「そこで、今夜は紋七も来るんだろうね」
「はい。もうさっきから来ています」と、お浜は云った。
「そりゃあ都合がいい」
案内されて二階へあがると、小さい机の上には位牌が飾られて、線香のうすい煙りのなか
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