のが、まず正当の判断であるらしく思われた。しかし死人の手にはいずれも刃物らしい物を掴んでいなかった。それかと思うようなものも其の場には落ちていなかった。それが疑いの種となって、二人はやはり他人に殺害されたのであろうという説がおこった。喧嘩の相討ちならば仔細はないが、ほかに下手人があるとすれば、人間ふたりを殺したという重罪人の詮議は厳重でなければならない。半七はすぐにその探索にかかった。
 その晩、料理屋の門口《かどぐち》へ来て、紋作はいるかと訊《き》いた男が先ず第一の嫌疑者であったが、頬かむりをしていたので人相も年頃もわからない。すぐに出て行ってしまったので、夜目では風俗も判らない。殆どなんの手がかりも無いので、さすがの半七も眼のつけどころに困った。しかし冠蔵はもう三十に近い男で、家には女房もある、子供もある。紋作は若い独身者《ひとりもの》で、のんきに飛びあるいている。芸人ふたりが殺されたといえば、その原因はおそらく色恋であろう。どの道、これは年のわかい独身者の紋作の方から調べ出すのが近道であるらしく思われたので、半七はその明くる日の午過ぎに先ず紋作の家をたずねた。
 小間物屋の二階に
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