うなところもあるので、其蝶はまあ叱るだけで免《ゆる》してやりました」
「そうすると、金魚の方はなんにも係り合いはないんですね」
「それは確かに判りません」と、老人は云った。「なにを云うにも肝腎の其月が死んでしまったので、その売り先が知れません。だんだん探ってみると、どうも浅草の札差《ふださし》の家らしいのですが、こうなると先方でも面倒のかかるのを恐れて、一切《いっさい》知らないと云い張っていますから、どうにも調べようがありません。元吉や惣八が、人殺しにかかり合いのないことだけは明白ですが、金魚の方は、ほん物かいか[#「いか」に傍点]物か、とうとう判らないことになりました。勿論、こんな変りものは買う方も悪いということになっていましたから、たといいか[#「いか」に傍点]物を売り込んだことが知れても、重い罪にはなりません。冬の金魚も変りものですが、この宗匠も女中も人間のなかでは変りものの方でしょうね。こんにちのお医者にみせたら、みんな何とかいう病名がつくのかも知れませんよ」



底本:「時代推理小説 半七捕物帳(三)」光文社文庫、光文社
   1986(昭和61)年5月20日初版1刷発行

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