人で、めったに出られないというのであった。
松吉がゆき着く前に、お玉ヶ池の近所の人から知らせて来たので、お葉の家ではもう娘の変死を知っていたが、あいにく母のおまんは風邪《かぜ》をひいて四、五日前から寝込んでいる。弟の源吉はまだ子供でどうすることも出来ないので、日が暮れてから近所の人たちが死骸を引き取りにくる筈になっている。松吉は病人の枕もとへ行っていろいろ詮議したが、まえにも云った通りでお葉はこの頃めったに帰って来ない。母は二度ばかりもお玉ヶ池へたずねて行ったが、主人の其月はいつも留守であったので、一体どんな人であるか、その顔さえも見|識《し》らない。そういうわけであるから、主人の家の事情などはなんにも知らない。勿論、主人と娘とのあいだにどんな関係があるか、ちっとも知ろう筈はないとおまんは云った。かれは正直な田舎風の女で、嘘をつきそうにも見えないので、松吉は先ずそのくらいにして引き揚げて来た。
「その煙草屋の甥というのは、本所の金魚屋の親類で、元吉という奴じゃあねえか」と、半七は訊《き》いた。
「そうです。そうです。元吉というんです。親分はもう聞き込みましたかえ」
「道具屋の惣八から
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