かかった。かれの親類や、かれの弟子や、出入りの者や、それらの住所姓名を一々に調べることにした。子分の庄太を千住へやって、お葉の身許もしらべさせた。検視が済んでも、誰かその始末をする者がなくては、二つの死骸をどうすることも出来ないので、家主と近所の者四、五人があつまって来て、ともかくもその死骸の番をしていることになった。半七も坐っていた。みじかい冬の日がもう暮れかかる頃になって、其月の弟子たちがだんだんに寄って来たが、かれらは不慮の出来事におどろき呆れているばかりで、どの人の口からも何かの手がかりになるような新らしい材料をあたえてくれなかった。あかりの点《つ》く頃に半七はそこを出て、町内の自身番へゆくと、道具屋の惣八は飛んだ係り合いで、まだそこに留められているので、番屋の炉のそばに寒そうに竦《すく》んでいた。
「道具屋さん。お気の毒だね。節季師走《せっきしわす》のいそがしい最中に、いつまでも留められていちゃあ困るだろう。もういい加減に帰っちゃあどうだね」
「帰ってもよろしゅうございましょうか」と、惣八は生きかえったように云った。
「どうで直ぐには埓《らち》があきそうもねえから、用があった
前へ
次へ
全39ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング