。まえにも云う通り、小左衛門は手堅い人物であるので、ふだんから自分の手習い子が遊芸の稽古所などへ通うのをあまり懌《よろこ》ばないふうであった。それが自然とお粂の耳にもひびいているので、この場合、かみなり師匠に対する彼女の反感は一層強いらしかった。
「大勢のまえであまり激しく叱り付けられたもんだから、気の小さいなあ[#「なあ」に傍点]ちゃんは朋輩にきまりも悪し、家《うち》へ帰れば又叱られるだろうと思って、可哀そうに何処へか姿をかくしてしまったんですよ。ひょっとすると、井戸か川へでも飛び込んだかも知れない。そうなれば師匠が弟子を殺したも同然じゃありませんか。かみなり師匠の奴が下手人《げしゅにん》ですわ」と、お粂は泣き声をふるわせて又罵った。
「まあ、静かにしろ」と、半七は叱るように云った。「そんなことは今更云ったって始まらねえ。まあ、落ち着いて考えさせてくれ。甲州屋の娘もまだ十二や十三じゃあ、色気の方は大丈夫だろう」
「そりゃあ大丈夫。そんなことの無いのはあたしが受け合います」
「内輪《うちわ》になにも面倒はあるめえな」
「そんなことはない筈です」
お直には藤太郎という兄がある。両親も揃
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