々にも話して、あまの河の大きく横たわっている空の下を神田三河町まで急いで来たのであった。
「ねえ、なあ[#「なあ」に傍点]ちゃんはどうしたんでしょう」と、お粂はこの話を終って兄の顔を見つめた。
「なにしろ、甲州屋でも心配しているだろう」
半七はこれにやや似た探索の経験をもっていた。それは前に云った「朝顔屋敷」の一件であるが、それとこれとは全く事情が違っているらしく感じられた。
「お師匠さんがあんまり叱ったから悪いんだわね」と、女房のお仙がそばから口を出した。
「そりゃあそうですともさ」と、お粂は腹立たしそうに答えた。「かみなり師匠があんまりがみがみ云うからですわ。何か悪い事でもしたというなら格別、たなばた様の短尺なんぞちっとぐらい出来が悪いからといって、そんなに叱る事はないじゃありませんか。まして男と違って女の子ですもの、むやみな叱言《こごと》を云えば何事が出来《しゅったい》するかわからない。一体、あの雷師匠が判らずやなんですからね、ただむやみに呶鳴《どな》り散らせばいいかと思って……。あんなことで子供たちを仕立てて行かれるもんですかよ」
彼女は口をきわめて雷師匠を罵《ののし》った
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