それが一種の学年試験のようなもので、師匠は一々それを審査して、その成績の順序を定めるのであるから、子供ごころにも競争心がないでもない。上位の方に択《よ》り出されたといえば、その親たちも鼻を高くするのである。きょうはその大清書の日で、甲州屋のお直も紅い短尺に何かの歌を書かされたのであるが、それがひどく出来がわるいというので師匠の小左衛門から叱られた。
お直は手習いの成績はよい方であったが、今度はどうしたものか非常に出来が悪かったので、笹竹のずっと下の方にかけられた。ここの師匠は成績の順序で色紙《いろがみ》をかけるので、第一番のものは笹竹の頂上にひるがえっていて、それから順々に、下枝におりて来るのであった。お直は自分の短尺が同年の稽古朋輩のなかでも甚だしく下の方にかけられてあるのを見て、さっきからもう泣き声になっていたところを、更に師匠からきびしく叱られたので、彼女はとうとう声をあげて泣き出した。師匠の御新造《ごしんぞ》がさすがに気の毒がって、泣いているお直をなだめて帰してやったが、一人で帰すのはなんだか心もとないので、お力《りき》という近所の娘を一緒につけて出すと、お直は途中で不意にお
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