て、それに又いろいろの想像説も加わって、見て来たような作り話を吹聴《ふいちょう》する者もある。一体その空屋敷というのは、以前は内藤右之助という三百石取りの旗本が住んでいたのですが、二年ほど前から小石川の茗荷谷《みょうがだに》の方へ屋敷換えになって、今では誰も住んでいないので、門のなかは荒れ放題、玄関さきまで夏草が茫々と生いしげっているというありさま。……昔は方々にこういう空屋敷があって、化け物屋敷だなどと云われたものです。……その門前にあたかもこんな事件が出来《しゅったい》したので、猶更《なおさら》いろいろの風説が高くなって、なにかその屋敷にも関係があるように云い触らすものが出て来たので、町奉行所の方も捨てて置かれなくなって、一応その詮議をしようかと云っていると、ここに又一つの事件が出来《しゅったい》したんです。
その事件は次の日の夜のうちに起ったのでしょう。仲町通りのあき屋敷の門前、丁度かの蛇がとぐろをまいていたあたりに一人の娘が倒れているのを、暁方《あけがた》になって見つけ出したので、近所ではまた大騒ぎになりました。しかもその娘は一昨日《おととい》のゆう方、そこで蛇のとぐろのなか
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