れていた。
かれも雷獣に襲われたらしかった。今度は尾張屋に落雷しなかったが、近所に落ちた雷獣がここへ飛び込んで来たのかも知れないという説もあった。このあいだの事件のあった矢先であるので、重吉の死は雷獣の仕業であると決められてしまった。
神田三河町の半七は、子分の庄太からこの報告をうけて首をかしげた。
「天災といえば仕方もねえが、そう立てつづけて一軒の家《うち》に祟《たた》るのもおかしいな。その重吉というのはどんな男だ」
「主人の遠縁のもので、日光辺の生まれだそうです。年は二十一で、五、六年まえから尾張屋の厄介になってやっぱり店の仕事を手伝っているんですが、どっちかというと孱弱《かよわ》い方で、米屋のような力仕事には不向きなので、遊び半分にぶらぶらしているようでした」
「尾張屋には死んだ娘と主人のほかに誰がいる」と、半七は又|訊《き》いた。
庄太の説明によると、尾張屋は近所でも内福という噂を立てられているが、その家族は多くない。女房のおむつは先年世を去って、ほんとうの家族というのは主人の喜左衛門と娘のお朝の二人だけである。ほかには彼の遠縁の重吉と、下女のおかんと、米|搗《つ》きが二人と小僧が一人と、あわせて一家七人暮らしであるが、喜左衛門は手堅く商売をしているので、世間の評判も悪くない。娘のお朝も先ず十人並の娘で、これまでに悪い噂もなかった。なにしろ親ひとり子ひとりの尾張屋で、その跡取り娘をうしなった喜左衛門のかなしみはひと通りでない。ほかから養子をするか、それともかの重吉をひきあげて相続人にするか、それもまだ決まらないうちに重吉もまた死んでしまったのは、かさねがさねの不幸であった。
「そこで、尾張屋の親類のうちに誰か婿にでもなりそうな奴があるのか」と、半七はまた訊いた。
「さあ、そこまでは知りません」と、庄太は頭をかいた。
「じゃあ、すぐにそれを調べてくれ」
「ようがす」
庄太はうけ合って帰った。
それから三日ほど経って、庄太は再びたずねて来て、尾張屋の親類一門はみな子供に縁のうすい方で、どこにもよそへやるような男の子はない。ただ本所|松倉町《まつくらちょう》に商売をしている三河屋に二人の娘があるので、あるいはその妹娘を尾張屋へくれることになるかも知れないと報告した。
「そこで、その三河屋というのはどんな奴だ」と、半七は訊いた。
三河屋は夫婦ともに揃っ
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