半七捕物帳
旅絵師
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)隠密《おんみつ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)山崎|澹山《たんざん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)だだあ[#「だだあ」に傍点]
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     一

「江戸時代の隠密《おんみつ》というのはどういう役なんですね」と、ある時わたしは半七老人に訊《き》いた。
「芝居や講釈でも御存知の通り、一種の国事探偵というようなものです」と、老人は答えた。「徳川幕府で諸大名の領分へ隠密を入れるというのは、むかしから誰も知っていることですが、その隠密は誰がうけたまわって、どういう役目を勤めるかということがよく判っていないようです。この隠密の役目を勤めるのは、江戸城内にある吹上《ふきあげ》の御庭番で、一代に一度このお役を勤めればいいことになっていました。
 なぜ御庭番がこのお役を勤めることになったかというと、それにはいろいろの説がありますが、三代将軍家光公がある時、吹上の御庭をあるいている時に、御庭番の水野なにがしというのを呼んで、これからすぐに薩摩へ下《く
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