のふだんの行状が悪くないということが確かめられたのとで、ひと先ず主人預けとして下げられた。名代《みょうだい》部屋に寝ていた他の二人も、やはり主人あずけで無事に下げられたとのことであった。
あくる日、半七は八丁堀へ出向いて、きのう取り調べただけの結果を報告すると、藤四郎はなるべく早く調べあげてくれと催促した。半七は承知して帰って、子分の多吉をよんで何事かを耳打ちすると、多吉は心得てすぐに出て行った。
それから三日目である。花どきの癖で、長持ちのしない天気はきのうの夕方からなま暖かく陰《くも》って、夜なかから細かい雨がしとしと[#「しとしと」に傍点]と降り出した。早起きの半七がまだ顔を洗っている明け六ツ(午前六時)前に、伊勢屋の与七が息を切ってたずねて来た。
「親分、又いろいろのことが出来《しゅったい》しました」
「与七さんか。早朝からどうしたんだ。まあ、こっちへあがって話しなせえ」
「いえ、落ち着いちゃあいられないんです」と、与七は上がり框《がまち》に腰をおろしながら口早にささやいた。「ゆうべの引け四ツから、けさの七ツ(午前四時)頃までのあいだに、家《うち》のお浪というのが駈け落ちを
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