もとで、こんな騒ぎを仕出来《しでか》したんですから、遠島にもなるべきところを江戸払いで軽く済みました。そうして、もう一度旅へ出るつもりで江戸をはなれますと、神奈川に泊まった晩からまた俄かに大熱を発して、とうとうその宿で藻掻き死にに死んでしまったそうです。とんだ因果で可哀そうなことをしました。それでも徳三郎は本人ですから仕方がないとして、ほかの人達がなぜ祟られたのか判りません。おそらく前にも云ったような理窟で、ふと摺れ違ったりした時に、向うで何か羨ましいとか小癪《こしゃく》にさわるとか思って、じっと見つめると、すぐにこっちへ感じてしまうので、向うでは別に祟るというほどの考えはなくとも、自然にこっちが祟られるような事になってしまったのでしょう。なんだか薄気味の悪い話です。一体その蛇神というのはどういうものかよく判りませんが、わたくしの懇意な者に九州の人がありまして、その人の話によりますと、四国の犬神、九州の蛇神、それは昔から名高いものだそうです。嘘のようなお話ですが、彼《か》の地にはまったくこういう不思議の家筋の者があって、ほかの家では決してその家筋のものと縁組などをしなかったといいます。
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