から、あとは真打《しんうち》に頼もうじゃあねえか」
背中をぽんと叩かれて、勘蔵はあぶなく倒れかかった。
「ここまで漕ぎ付ければ、この話も大抵おしまいです」と、半七老人はひと息ついた。「勘蔵の白状によると、前の年の暮に備前屋の娘の綺麗な肌をみたときには、まだどうしようというほどの煩悩《ぼんのう》も起らなかったのですが、火事の後片付けの済むまで娘は橋場の親類へ立ち退いているうちに、そこの店の若い者と出来合ってしまった。なんにも知らない親たちは娘の仮病を心配して、もう一度橋場へやろうかと云っていたが、やっぱり其の儘になっていると、店の者のうちに何処からどうして聞き出したのか橋場の一件を知っている者があって、それが男湯へ来た時に勘蔵にうっかり[#「うっかり」に傍点]しゃべったので、勘蔵は急に気を悪くした。そこへちょうど風呂がまた毀《こわ》れて、娘が車湯へはいりに来たので、勘蔵はもうたまらなくなって、その背中を流しながらうまく誘い出したんです」
「娘はひとりで女湯へ来たんですか」と、わたしは訊《き》いた。
「いいえ、一人じゃありません。女中が一緒に付いて来たんですが、こいつが柘榴口《ざくろぐ
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