伝吉という男を呼んで来て、儲けは三人が三つ割にする約束で、夜ふけに熊の死骸を高輪の裏山へ運び出した。生皮をあつかうのはむずかしい仕事であるが、伝吉は少しくその心得があるので、焚き火の前でどうにかこうにかその腹を割《さ》いて其の皮を剥《は》いだ。しかし肝腎《かんじん》の熊の胆《い》がどれであるか判らないので、三人は当惑した。腹を截《た》ち割ったら知れるだろうぐらいに多寡をくくっていた彼等は、今更のように途方にくれた。
 そこで三人は相談を仕直して、更にもう一人の味方をこしらえることにした。それは彼《か》の備前屋の番頭の四郎兵衛で、かれは大きい薬種屋の番頭であるから熊の胆の鑑別が付くに相違ない。彼をこっちの味方に誘い込んで、かれの口からその主人にうまく売り込んで貰おうということになって、三人は穴を掘って一と先ず熊の死骸を埋めた。剥いだ生皮は自分の方で鞣《なめ》してやると云って、伝吉が持って帰った。二度目の相談はそれと決まったものの、馴染《なじみ》のうすい四郎兵衛を呼び出して、だしぬけにこんな相談を持ちかける訳にも行かないので、六三郎は車湯の勘蔵にその橋渡しを頼もうと思いついた。
 勘蔵は四
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