ったかと声をかけましたから、もう帰りましたと返事をしますと、そのまま自分の家へ帰ってしまいました」
「それから長作はどうした」
「あくる朝は仕事に出ると云って家を出て、やっぱりいつもの博奕場へはいり込んだようでございました。それからはちっとも家に落ち着かないで……。それまではどんなに夜が更《ふ》けても、きっと家へ帰って来たんですが、その後はどこを泊まりあるいているのですか、三日も四日もまるで帰らないことがあるもんですから、わたくしも心配でたまりません。といって、お父っさんの耳へ入れますと、また余計な苦労をかけなければなりませんから、わたくしがそっと藤代様のお屋敷に迎いに行きましたが、夜は御門が厳重に閉め切ってあるので、女なんぞは入れてくれません。どうしようかと思って、松円寺の塀の外に立っていて、いっそもうあの銀杏に首でも縊《くく》って[#「って」は底本では「つて」]しまおうかと考えていますと、そこへ二人連れの男が通りかかったもんですから、あわてて其処を逃げてしまいました」
「長作はそれぎり帰らねえのか」
「それから二、三度帰りました」
「掛地や羽織のほかに金を見せたことはねえか」
「掛
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