半七捕物帳
女行者
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)会釈《えしゃく》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)品川|宿《じゅく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「日+向」、第3水準1−85−25]
−−

     一

 明治三十二年の秋とおぼえている。わたしが久松町の明治座を見物にゆくと、廊下で半七老人に出逢った。
「やあ、あなたも御見物ですか」
 わたしの方から声をかけると、老人も笑って会釈《えしゃく》した。そこはほんの立ち話で別れたが、それから二、三日過ぎてわたしは赤坂の家をたずねた。半七老人の劇評を聞こうと思ったからである。そのときの狂言は「天一坊《てんいちぼう》」の通しで、初代左団次の大岡越前守、権十郎の山内伊賀之助、小団次の天一坊という役割であった。
 わたしの予想通り、老人はなかなかの見巧者《みこうしゃ》であった。かれはこの狂言の書きおろしを知っていた。それは明治八年の春、はじめて守田座で上演されたもの
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