を表へ突き出してしまった。突き出された久次郎はそれから家へも帰らないで、どこをどうさまよい歩いていたのか判らない。かれは水死の浅ましい亡骸《なきがら》を品川の海に浮かべたのであった。
式部の白状はこの通りで、お万とお千の申し立てもそれに符合していた。八丁堀同心や半七らがうたがっていたような勤王や討幕などの陰謀はまるで跡方もないことで、一種の杞憂《きゆう》に過ぎなかった。かれはやはり初めに云ったような、偽公家《にせくげ》の山師《やまし》であった。その山師におびやかされて、すぐに疑惑と不安の眼を向けるのを見ても、幕末当局者の動揺が思いやられた。
こんなことは長くつづく筈はないので、一万両の金を儲け出したらば、京都へ帰って田地でも買って、安楽に一生を暮らすつもりであったと式部は申し立てた。かれはもう三千両ほどをたくわえて、奥の唐櫃にしまい込んであったのを一切没収された。単にこれだけのことであれば、かれらは追放ぐらいで済んだかも知れなかったのであるが、伊勢屋の伜久次郎の死がこれに関聯しているので、その罪は軽くなかった。
式部は死罪に行なわれた。
お万とお千は追放を申し渡された。美しい姉妹のその後の運命はわからない。
底本:「時代推理小説 半七捕物帳(二)」光文社文庫、光文社
1986(昭和61)年3月20日初版1刷発行
入力:tatsuki
校正:おのしげひこ
1999年9月28日公開
2004年2月29日修正
青空文庫作成ファイル:
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