匠さまを救ってくれと、そればかりを繰り返していた。
「お小僧さん、なかなか強いな」と、子分たちも励ますように云った。
鳥沢の宿へはいったのは夜の五ツ頃で、夕方から細かい雨がしとしとと降り出していた。今夜のうちに次の宿の猿橋まで乗り込みたいと思ったが、あいにくに雨が降るのと、駕籠屋も疲れ切っているのとで、半七はここで今日の旅を終ることにして、駕籠のなかから声をかけた。
「おい、若い衆さん。この宿《しゅく》でどこかいい家《うち》へつけてくれ」
「はい、はい」
雨はだんだん強くなって来たのと、泊まりの時刻をもう過ぎたのとで、暗い宿《しゅく》の旅籠屋《はたごや》では大戸をおろしているのもあった。四挺の駕籠が宿の中まで来かかると、左側の小さい旅籠屋のまえに一挺の駕籠のおろされているのが眼についたので、半七は自分の駕籠の垂簾《たれ》をあげて透かして視ると、その駕籠は今この旅籠屋に乗りつけたらしく、駕籠のそばには二人の男が立っていた。ひとりは内にはいって店の番頭となにか掛け合っているらしかった。その三人がいずれも旅僧であることを覚った時、半七はすぐに自分の駕籠を停めさせた。その合図を聞いて子分の
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