されなかった。そのうちに誰が云い出すともなく、それは狐の仕業《しわざ》であるという噂が伝えられた。
 昔からこの土地には、小女郎狐というのが棲んでいて、いろいろの不思議をみせると云い伝えられている。ある時には美しい女に化けて往来の人をたぶらかすこともある。美少年にも化ける、大入道にも化ける。あるときには立派な大名行列を見せる。源平|屋島《やしま》の合戦をみせる。こういう神通力《じんつうりき》をもっている狐であるから、土地の者も「小女郎さん」と畏《おそ》れうやまって、決して彼女に対して危害を加えようとする者もなかった。ところが、今から五、六日ほど前に、この畑で猪を捕るために掘ってある陥穽《おとしあな》のなかに小さい狐が一匹落ちて迷っているのを発見して、番人の七助とあたかもそこに来あわせた佐兵衛、次郎兵衛、弥五郎、六右衛門との五人がすぐにその狐の児を生け捕って、いたずら半分に松葉いぶしにして責め殺したことがある。おそらく彼《か》の小女郎狐の眷族《けんぞく》であって、その復讐のために彼等もまた松葉いぶしのむごたらしい死を遂げたのであろう。その証拠には直接に手をくだした五人は命をとられて、無関
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