し十四の小娘の腕ひとつで、容易にその復讐はおぼつかないので、しばらく忍んで時節を窺っているうちに、あたかもかの佐兵衛ら七人が十三夜の宵から猪番小屋にあつまったのを知って、かれは小屋の外にかくれて彼等の酔い倒れるのを待っていた。しかし自分の小腕で七人の男を刺し殺すことはむずかしいと思ったので、かれは俄かに松葉いぶしを思い立って、そこらから松葉や青唐辛をあつめて来て、七人のかたきを狐か狸のようにいぶしてしまった。
 お竹はその足ですぐに代官所へ名乗って出るつもりであったが、母のことを思い出して又躊躇した。姉も自分もこの世を去っては、盲目の母を誰が養ってくれるであろう。それを思うと、かれは命が惜しくなった。一日でも生きられるだけは生き延びるのが親孝行であると思い直して、かれは人に覚られないのを幸いに自分の家に逃げて帰った。偶然に思いついた松葉いぶしが勿怪《もっけ》の仕合わせで、世間ではそれを狐の祟りと信じているらしいので、彼女はひそかに安心していたが、それでもまだなんだか不安にも思われるので、それが確かに狐の仕業であるということを裏書きするために、かれは更に高巌寺に忍んで行って、五人の墓をた
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