前にもいう通りの簡単なものであったが、お竹がそこへ忍んで来たのには驚くべき事情がひそんでいた。庄屋の猪番小屋に松葉と青唐辛とを積み込んで、番人をあわせて五人の男をいぶし殺したのは彼女の仕業であった。小女郎狐の正体はことし十四の少女であった。
もう逃がれられないと覚悟したらしく、お竹は長次郎の前で何事も正直に申し立てた。かれは姉のかたきを取るために、男五人をむごたらしくいぶし殺したのであった。姉が変死の報らせを受け取って、かれは四里ほど離れている奉公先から暇を貰って帰ってくると、盲目《めくら》の母はただ悲嘆に沈んでいるばかりで、くわしい事情もよく判らなかったが、姉のおこよが縁組の破談から自殺を遂げたらしいことは、年のゆかない彼女にも想像された。そればかりでなく、かれは仏壇の奥から姉の書置を発見した。母は盲目でなんの気もつかなかったのであるが、お竹はすぐそれに眼をつけて、とりあえず開封してみると、それは姉から妹にあてたもので、おこよの死因は明白に記《しる》されてあった。
おこよが隣り村へ縁付くことになったのを妬《ねた》んで、今まで自分たちの恋のかなわなかった若い者どもが、隣り村へ行って
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