に奉公に出ている。おこよは孝行者で、昼間は庄屋の茂右衛門の家へ台所働きに行って、夜は自分の家に帰って近所の人の賃仕事などをして、どうにか斯《こ》うにか片輪者の母を養っていたが、かれが容貌がいいのはここらでも評判であった。したがって、村の若い者どもから度々なぶられたり袖を曳かれたりしたこともあったが、おとなしい彼女は振り向いても見なかった。
そのうちに、かれの身の上に思いもよらない幸運が向いて来た。かれの孝行と容貌好しとが隣り村にもきこえたので、相当の家柄の百姓の家から嫁に貰いたいという相談を運んで来て、母も一緒に引き取って不自由させまいというのであった。その媒介人《なこうど》はかの高巌寺の住職で、話はもう半分以上まで進行したときに、今度は思いもよらない不運がかれの上に落ちかかって来た。それは実に飛んでもない話で、かれは彼《か》の小女郎狐と親しくしているという噂であった。
おこよは用の都合で暮れてから庄屋の家を出ることもあった。その帰り途で、彼女はここらにめずらしい寺小姓風の美少年に出逢って、暗い鎮守の森の奥や、ひと目のない麦畑のなかへ一緒に連れ立って行ったことがある。その美少年は小
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