あ遣り切れねえ。今朝なんぞはもう薄霜がおりたらしいからね」
「十三夜といやあ、あの晩にゃあ飛んだことがあったそうだね。私もたった今、御代官所の宮坂さんから詳しいことを聞いて来たんだが、働き盛りの若けえのが五人も一度にいぶされちゃあ堪まらねえ。刈り入れを眼のまえにひかえて、どこでも困るだろう。五人の墓はみんなこの寺内にあるんだね」
「そうですよ。先祖代々の墓がみんなこの寺内にあるんだからね。ところが、どうも困ったことが出来てね」
「なんだ。何が困るんだ」と、長次郎はそこに束《たば》ねてある枯れ枝の上に腰をおろした。
「小女郎がやっぱり悪戯《いたずら》をするらしい。毎晩のようにやって来て、五人の墓の前に立っている新らしい塔婆を片っぱしから引っこ抜いてしまうんですよ。花筒の樒《しきみ》の葉は掻きむしってしまう。どうにもこうにも手に負えねえ。初七日《しょなのか》を過ぎてまだ間もねえことだし、親類の人達だって誰が参詣に来ねえとも限らねえから、あまりこう散らかして置いてもよくねえと思って、毎朝わしが綺麗に直して置くと、毎晩|根《こん》よく掻っ散らして行く。こっちも根負けがしてしまって、きのうも佐兵
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