いいぜ。わたしもここへ来たのが係り合いだ。まあ、なんとかみんなと話し合いをつけてみよう」
そのなかで重立っているらしい三、四人を、すこし距《はな》れた木のかげへ連れ込んで、半七は小声で注意をあたえた。いかに観音の寺内でも土地の者がみだりに刑罰を加えるのは穏当でない。万一あの中間が口惜《くや》しまぎれに舌でも食い切ったらどうするか。あるいは自分の部屋へ引っ返して大勢で仕返しに来たらどうするか。そんな事件が出来《しゅったい》した場合には、わたくしに刑罰を加えた人々は当然何等かの御咎めをうけなければなるまい。あれだけの仕置をしたらもう十分であるから、このままに免《ゆる》してやるのが無事であろうと、彼は云い聞かせた。相手が相手であるので、かれらももう逆《さか》らわなかった。中間は縄を解いて放された。
「こいつら、おぼえていろ」
睨みまわして立ち去ろうとする中間を、半七は呼び止めた。
「おめえ、それがおとなしくねえ。悪いことをして威張る奴があるもんか。まあ、黙って引き取りなせえ」
云いながら彼は中間の手に二朱の金をそっと握らせた。
「どうも済まねえ。いろいろ御厄介になりました」と、中間は顔
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