か訳があるんでしょう」
「むむ。訳があるに違げえねえ。それでおれも大抵判った」と、半七はほほえんだ。
「もう一つ斯ういうことがあるんです。文字春さんの家の近所に馬道の上州屋の隠居所があるんです。あのお年ちゃんという子は、上州屋から容貌《きりょう》望みで是非お嫁にくれと云い込まれているんだというじゃありませんか。その話はなんでも先月頃から始まったんだということです。ねえ、その先月頃から文字春さんの家のまえに立って、窓からお年ちゃんを覗いている女があるというんですから、その娘はきっと上州屋の隠居所へ来る女で、そっとお年ちゃんを覗いているんだろうと思うんです。文字春さんもそんなことを云っていました。けれども、考えようによっては、それがいろいろに取れますね」
「そこでお前はどう取る」と、半七は笑いながら訊いた。
その娘は上州屋の奉公人で、三味線堀近所の隠居所へときどき使にくるに相違ないとお粂は云った。自分の邪推かは知らないが、ひょっとすると其の娘は上州屋の息子となにか情交《わけ》があって、今度の縁談について一種の嫉妬《ねたみ》の眼を以てお年を窺っているのではあるまいかと云った。
「なかなか隅
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