換えに来た者はねえか」
「ほかにはありませんでした」
「その娘は幾つぐらいの子で、どんな装《なり》をしていた」
「十七八でしょう。島田髷に結って、あかい帯をしめて、白い浴衣《ゆかた》を着ていました」
「どんな顔だ」
「色の白い可愛らしい顔をしていました。どこかの娘か小間使でしょう」
「その娘は今まで一度も買いに来たことはねえか」
「さあ、どうも見たことはないようです」
「いや、ありがとう」
小僧に別れて、浅草の方角へ足をむけると、半七は往来で源次に出逢った。
「親分。舐め筆の娘はどっちも堅い方で、これまで浮いた噂はなかったようです」と、源次は摺り寄ってささやいた。
「そうか。時に丁度いいところで逢った。おめえこれから浅草へ行って、庄太にも手を貸してもらって、上州屋にいる奉公人の身許をみんな洗って来てくれ。男も女も、みんな調べるんだぜ。いいか」
「判りました」
「じゃあ、おめえに預けて俺は帰るぜ。大丈夫だろうな」
「大丈夫です」
それから二、三軒用達しをして、半七は神田の家へ帰った。近所の銭湯で汗を流して来て、これから夕飯を食おうとするところへ、お粂が来た。
「行って来ましたよ」
「
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